大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和33年(オ)1068号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

上告代理人岡田実五郎、同佐々木(略)の上告理由について。

論旨は、上告人が本件金銭債務弁済のため、同額の小切手を提供したにも拘らず、原審がこれを債務の本旨に従つたものでないとしたのは、民法四九三条の解釈を誤つたものであると主張する。

しかし、金銭債務を負担する者が、弁済のため同額の小切手を提供しても、特別の意思表示又は慣習のない限り、債務の本旨に従つたものといえないことは、大審院判例(大正八年(オ)第二九六号、同年八月二八日大審院民事部判決、民録、二五輯一五二九頁)の示す所である。銀行の自己宛振出小切手或は銀行の支払保証ある小切手の如き、支払確実であること明白なものは格別として、然らざる限り、その支払の必然であることの保証がないのであるから、右判例の示す所は当然であつて、遽に右判例を変更する必要を見ない。郵便為替の送付を以つて、金銭債務弁済の効力を生ずるものとする論旨引用の判例は、郵便為替が取引上現金と同一視して可なるものである以上、単なる銀行渡し小切手を問題とする本件に適切でない。

されば、本件において特別の意思表示又は慣習のなかつたことを確定して、以上と同趣旨の結論をした第一審判決を維持する原判決は、正当である。

論旨は、理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例